絵衣理と棗が付き合うようになってから、初めての夏。

 
 試験が終わり、夏休みが始まると、棗は仕事の時間まで、絵衣理の部屋へ通うようになった。しかし、絵衣理の勉強の邪魔はしない。絵衣理は受験生だ。上位の大学の推薦を狙っている。だから、通常の成績はもちろん、2学期の成績も重要視されている。だから、棗もそれをわかっていて、邪魔をしない。絵衣理が与えた課題を、黙々とこなしていた。しかし3日にいっぺんは


「やっぱり栄養補給が必要っ」


 といって絵衣理を押し倒す。


 棗が緑葉学園恒例の勉強強化合宿に行って帰ってきた、翌日。


「やきそばいかがですかー」


 絵衣理は焼きそばを売っていた。


 絵衣理の住むマンションでの夏祭り。高校生たちは焼きそばを担当している。


「あっつーい」


 絵衣理は叫ぶ。


「いつも部屋にこもってるからだよ」


「受験生なんですっ」


「彼氏連れ込んでるくせに、何の勉強だか」


 雪がぼそりという。


「あんたたちみたいに万年ひっついてないわよ」


「なんだよー、俺らがサルみたいにやってるとでもいうの?」


 下準備をしている達也が後ろから声を投げる。


「似たようなもんじゃん」


「これでも遠慮してるんだぜー。絵衣理ねえの部屋来るの」


「あったりまえですっ今までが来すぎ」


「ってか、絵衣理ねえも下品。今年は大地がいるんだよ?」


 雪が釘を刺した。


「あ。そういえば、ごめん」


 ぶす、とした表情でもくもくとキャベツを切っている男の子がいた。


「大地もなー男だもんなーこんくらい平気だよなあ」


 達也がからかうように言う。


「・・・うっさい」


 大地がぼそりと言った。


「あの無愛想さ、なんとかならんかねえ」


 雪が呆れながら言った。


「反抗期なんでしょ。ほうっとけ」


 絵衣理は気にせず、焼きそばを焼き始めた。


「絵衣理」


 その声に、絵衣理はぱっと顔を上げる。笑顔になる。


「ナツ君っ。本当に来てくれたんだ」


「約束だし。これ、差し入れ」


「わーい、ありがとう」


「売れ行きは?」


「順調。終わる前には売り切れるかな」


「あ、絵衣理ねえの彼氏だ」


 雪と達也がやんやという。


「みせつけてんじゃねーぞー」


「ねーぞー」


「あのねー。ナツ君、手伝いに来てくれたんだよっ」


「へ?」


「去年の様子見て、大変だろうからって、手伝いにきてくれたのっ」


「まじでか?!」

 達也と雪が手のひらを返したようにへりくだった。


「それは、ありがとうございますー」


「お暑い中、ご苦労様ですー」


 棗が笑う。


「ごめんねー。いつもが万事、こんな調子なんだ、この二人」


「いや、楽しい」


「そ?」


 そこで、絵衣理は大地の視線に気づく。


「あ、ナツ君。この子ね、今年から1年なんだよ。大地っていうの」


「へえ、こんにちは」


「・・・こんにちは」


 大地はぼそぼそっと言った。


「あー、もう、大地」


 絵衣理が呆れる。


「ごめんね、この子愛想がなくて」


「俺もこんなもんでしょ」


「そうでもないよー。ナツ君、笑うところは笑うし」


 そこで絵衣理は、あ、と気づいた。


「ナツ君、クラス、
Hだったよね?」


「うん」


「大地も
Hなんだ。強化合宿でどっかであってたかもねっ」


 絵衣理ははしゃいでいう。


(・・・うーん)


 棗は絵衣理に笑いかけながら、大地の視線を受けた。


(これは、単なるガン付きじゃないかな)


 棗はまあ、と気にしないで、焼きそばづくりに取り掛かり始めた。