「終わったー」


 絵衣理の部屋に、棗を入れて、一息ついた。


「はい、これ」


「ありがとう」


 絵衣理は棗からペットボトルを受け取る。


「大祭までまだちょっと時間あるね」


「ちょっと休憩しよう」


「あー、もう、1年たつんだね」


 絵衣理がにこにこしながら言う。


「ナツ君と出会って。ちょうど大祭、誘ってくれたねえ」


「・・・そうだね」


 なんだか気恥ずかしい。


「・・・そういえば」


「ん?」


「あの大地って子?」


「大地がどうかした?」


「あの・・・可愛いね」


「でしょー?」


 絵衣理が笑顔で言う。


「昔は女の子に間違われてたんだよー。肌がきれいで、目ぱっちりで、唇もぷっくりしてるし。今、それいったら、ぶーたれるから、言わないけど。かわいいでしょー」


「絵衣理にとって、大地君は?」


「ん?ツンデレ」


「は?」


「いっつもぶすくれてるわりには、今日みたいに祭にはきちんと参加してくれるし、後片付けまできっちりこなしてくれるし。中学時代はなんやかんやと後輩の世話やいてたみたい。慕ってる子、多いんじゃないかなあ」


「そう」


「昔はねーエリーねえ、エリーねえって言って、私のあとついてまわってたんだけどね」


「エリー?」


「絵衣理がうまく言えなかったみたい」


「大地君って好きな子とかは?」


「あー・・・どうなんだろう」


 絵衣理はううん、と考えた。


「聞いたこともなかったなあ」


 棗は苦笑した。絵衣理は気づいていない。


(まあ・・・いっか)


「私、準備してくるね~」


 絵衣理が部屋を出て行った。


 

 

 30分ほどして


「ナツくぅん」


「どうした?着付けうまくできなかった?」


「着付けはうまくいったんだけど」


 絵衣理が棗の前でくるんと後ろを向く。


「ここ、ピンがうまくささらない」


 絵衣理は髪をお団子にしていた。普段はおろしているせいか、絵衣理はあまり髪の扱いになれていない。


「ああ、ここ。こっちもついでに直しとく」


「ん、ありがとう」


「絵衣理、手先は器用なのに、こういうの、苦手だよね」


「なんかねー髪が言うこときいてくれない」


「サラサラだからなあ、逆に言うこときいてくれないのかもなあ」


 棗は器用に髪を仕上げていく。ついでに、ちゅっと首筋にキスをした。


「もうっ」


「はい、出来上がり」


「はーい」


「あ、ちょっと待って」


 棗はシャツを脱いで、タンクトップ1枚になった。


「なんで?」


「暑い」


「そ・・・」


 絵衣理は目をそらす。


「ん?どうした」


 棗はにやにやしながら、絵衣理に近づく。


「なんでもないっなんでもない」


「絵衣理、いつまでたっても照れるね」


「だって、慣れないもん」


「はいはい」


 棗は絵衣理の顎を持ち上げ、キスをした。


「・・・グロスついちゃうよ」


「あ、本当だ。珍しく化粧してる」


 棗がじぃっと絵衣理を見る。


「あんまり見るなあっ」


 絵衣理は叫んだ。


 

 

「綿あめあるかな」


 絵衣理は棗と手を繋ぎながら、るんるんと歩いていた。


「そうだ、強化合宿、どうだった?」


「どうだったって・・・勉強してただけだったからなあ」


「ラブ的なとか」


「あー・・・なんかうちのクラスのバカが女子部屋に侵入って騒いでた。俺寝てたから知らないけど、起きたら、説教かませられてたから、失敗したんじゃないかなあ」


 絵衣理が声を上げて笑った。


「うちらはねー、恋バナ咲かせてたよー。私、その時は好きな人いなかったら、聞いてるだけだったけど。いやあ、最近の高校生は聞きごたえがあるねえ」


「そうなの?」


「いや・・・進んでると言いますか。皆、結構あけっぴろげ」


「絵衣理はそういう話するの?副生徒会長とかと」


「しないよっ」


 絵衣理は顔を真っ赤にして、怒る。


「はしたないっ」


 いつもの文句がきたので、棗は笑った。

 

 

「相変わらず、多いねー」


「絵衣理」


「ん?」


 棗が腕を出す。


「腕、掴んでて。人が多いから」


「はあい」


 絵衣理は嬉しげに腕を組んできた。


 素直に聞くのは、珍しい、とちょっと棗は思った。手を繋ぐのは絵衣理は好きだが、下校途中、腕を組む、となると恥ずかしがってしない。


「ナツ君は何がいい?」


「クレープかなあ」


「あ、クレープもいいなあ。綿あめも入るかなあ」


「まあ、入るでしょ」


 そこで、絵衣理が、あ、と言った。


「大地だっ」


 絵衣理の声に、大地が気付く。


「大地、友達と来てたんだあー」


 絵衣理がにこにこと話しかける。大地は憮然としていた。


(・・・まあ、可愛いわな)


 整った顔。誰かに似ていると思ったら、生徒会長の聖に似ているのだ。あっちは超絶美形だが、顔の系統が似ている。身長もそんなに高くなく、下駄をはいている絵衣理よりも背が低い。


「もう、なんだかなあ」


 絵衣理がぷりぷりとしながら、言った。


「こっちが問いかけてもあー、とかふーんしか言わないんだもん」


「・・・反抗期じゃない?」


「だよねー。でも長いんだよねー。中2くらいからかなあ。急にそっけなくなってさあ」


 絵衣理はちらっと棗を見る。


「ナツ君も反抗期あった?」


「あ・・・まあ、あーどうなんだろう。仕事してたからなあ。うち、父親いないだろ?それで負担・・・というか、迷惑かけてるのがわかってたから、あんまりなかったかなあ」


「いい子だ」


 絵衣理がぽんぽん、と腕をたたく。


「あ、クレープ屋あった」


 絵衣理が嬉しそうに言った。


 

 

「あー食べたねえ」


「俺、まだ入るよ」


「は?すごいっ。なんか食べる?」


「んー、まあ、いいかなあ」


「あ。今何時?」


6時くらい」


 絵衣理が慌てる。


「ナツ君、仕事っ」


「今日はいいの」


「いいの?」


「強化合宿でやった最後のテストが点数よかったんだ。だから今日は9時まで
OK


「本当?」


 絵衣理は嬉しそうに言う。


「ふふー」


 絵衣理が腕をぎゅっとする。


「強化合宿でナツ君に会えなくて、ちょっと寂しかったからさー。嬉しい」


「お、素直に言うようになってきたな」


「ナツ君の前だけだよ。もうちょっと回る?」


「疲れたから、絵衣理んち行きたい」


「いいよー、あ、新作の漫画があるよ」