残暑が厳しい中での2学期。推薦組は追い込みに入る。


「絵衣理―テスト結果、どうだった?」


 夏休み明けに、全学年一斉に実力テストが行われる。


 絵衣理がにこっと笑った。


「綾女の成績には及ばないけど、良好。この調子なら、大丈夫」


「そうかー。よかったなー。・・・で、あえてつっこまなかったけど」


「ん?」


 絵衣理の左手をばっと持ち上げる。


「これ、高瀬から?」


「あ、うん」


 絵衣理は顔を赤くする。


「絵衣理の誕生日でもないのに?」


「あの・・・出会って・・・一周年ということで」


「あまっ」


 綾女が叫んだ。


「なんだー、どうしたー?」


「絵衣理がオトコから指輪もらったー」


「ちょっ、綾女」


 絵衣理のクラスはほとんどが2年からの持ち上がりだ。そのため、勝手知ったる風になっている。


「お、どれ見せてみ」


「あー左手、薬指にしてるー」


 女子達がわらわらと群がる。


「へえ、シンプルなデザインだけど、可愛いじゃん」


「高瀬、センスあるな」


 皆、言いたい放題だ。


 そして、
HRになるまで、いじられまくっていた。


 

 

 帰り道、絵衣理と棗は手を繋いで帰っていた。


「もうすぐ、文化祭だね。ナツ君のクラスは何やるの?」


「和風カフェ」


「あー、今ブームだもんねえ」


「なんか、女子が男子に着物着せたいらしい」


「あ、いいね、それ。ナツ君も着るの?」


「俺は裏方」


「あ、調理?」


「ん」


 そこで、絵衣理は気づく。


「大地も調理でしょ?」


 棗は驚いた。


「なんでわかるの?」


「大地ねー、ちっちゃい頃は私と一緒にお菓子作ってたんだよー。結構センスあった。だからかなあ、と思って」


「・・・」


「?ナツ君?」


「なに?」


「なんか、顔が怖いよ」


 棗ははっとする。


「ごめん」


「なんか怒らせるようなことした?」


「いや。・・・それより、文化祭月間、入ったら3年は午前中でしょ?帰る?」


「図書室で勉強しとく。ナツ君待ってる」


「そう。遅くなるようだったら、ラインするから、先帰ってて」


「はあい」


 棗は絵衣理の手を見た。指輪が光っている。なんとなく嬉しくなって、棗は突然絵衣理を抱きしめた。


「にゃっ」


 

 


(和風カフェかあ~)


 図書室で勉強しながら、絵衣理はぼんやりと考えてた。


(いいなあ。楽しそうで。お菓子にするなら抹茶系だよね。クッキーも抹茶味とか、パウンドケーキに小豆いれてみるとか)


 ふっと左手が視界に入った。そっと、指輪をなでる。


(本物・・・)


 本物とは・・・その、つまり・・・


 絵衣理はばっと教科書で顔を隠した。


(いかんっにやけるっ)


 その時、携帯のバイブが鳴った。ラインだ。


「ナツ君からだ」


“ヘルプ。調理室来て”


「?」


 

 

「あ・・・本当に、ごめん」


 調理室に行ったら、何故か憔悴しきった棗がいた。


「え・・・なにごと?」


「夏掛せんぱぁぁぁぁいっ」


 いきなり女子達に叫ばれて、絵衣理はびびった。


「助けてくださぁい」


「高瀬君、鬼なんですぅ」


 女子達が口々に言う。


「なにごと?」


 棗がはあ、とため息をつく。


「うち、和風カフェにするって」


「うん、聞いた」


「それで、今日、試しに作ってみようとしたわけよ・・・そしたら、こいつら使えないんだわ」


「使えないってなによっ」


「あんたの教え方が悪いんでしょっ」


「まかせとけって大見栄きったのは誰だよっ」


「まあまあ」


 なんとなく、状況が読めて、絵衣理は皆を宥める。


「失敗、しちゃったの?」


「とにかく中にっ」


 絵衣理はぐいぐいと中に連れていかれた。


「あー・・・こげた匂いするねえ」


「膨らまないんですっシュークリームがっ」


「こっちはかき混ぜてたら、べとべとになってくるんですっ」


「こっちはケーキが真中が生焼けにっ」


「まあまあ」


 絵衣理は落ち着いて言った。


「一つの種類ごとに、問題点を全部あげていって。教えられる範囲で教えるから。わからなかったら、ネットで調べればいいし。とにかく落ち着いて。まだ時間があるから」


 絵衣理はあいている椅子に女子達を座らせ、ルーズリーフに問題点を書き出していく。


「ケーキが生焼けならね、焼けた頃に上にアルミ箔を置くといいよ」


「材料がべちゃべちゃになるのは・・・」


「あー多分、それね。一気に大量生産しようとしたでしょ?どっかで分量間違ったんじゃないかな。面倒くさくてもね、一回一回の量で作る方が確実」


 絵衣理がさくさくと質問に答えていく。


「お前の彼女、女神様や・・・」


 それを傍目で見ながら、男子が言う。確かに、絵衣理は嫌な顔一つせずに、後輩の質問に丁寧に答えている。


「いーなあ、あんなに巨乳でお菓子作り得意で、頭もいいとか」


「・・・運動神経ないぞ」


「それがまた可愛いじゃんっ」


 絵衣理があらかた質問に答え終えたところで、きょろきょろとした。そして見つける。


「こらぁっ大地っ」


 こそこそと今まで隠れていた大地がびくっとなる。絵衣理がつかつかと大地に近づき、首ねっこを掴んだ。


「あんたっ私が叩き込んだでしょっ。あんたなら、こんくらいわかるでしょっ。せっかく調理班入ったんだから、その腕披露しなさいよっ」


「・・・絵衣理、うざい」


「呼び捨てにすんなっ」


「えー摺木君、お菓子作れるの?!」


 女子から声が上がる。絵衣理は自慢そうに言った。


「私が仕込みました。ケーキもシュークリームもどんとこい」


 大地は面倒くさそうにため息をついた。


「ほらっ指導っ」


 絵衣理が大地をぽん、と女子の中に放り込む。女子達はきゃあきゃあ言いながら、作業に戻った。


「お疲れ」


 棗が声をかける。


「ナツ君・・・。ナツ君がいながら、どうしてこんな事態になったの?」


「おれ、飲み物系の担当だから。目を離してるスキにこうなって・・・収拾つかなかった。ごめん」


「いいよお。いい息抜きになったし」


「それより、あれ、いいの?」


「あれ?ああ、大地。いいんじゃない?あいつ、無愛想だから多少もまれたら、愛想も増すでしょう」


 棗はなんだか大地が可愛そうになりながら、大地を見ていた。