ザコペンギンのblog

あなたのすぐそばにザコペンギンはいます(鳥類ではありません) そんなザコペンギンの日常を描きます。よければ暇つぶしにでも。そして発見情報をお待ちしております。 あと、私は精神病患者です。小説と同じくらいまたはそれ以上に病状、薬のことなど忘備録の意味を込めて書いています。双極性Ⅱ型(いわゆる躁鬱病)ですので、鬱の時の日記はお目汚しです。「精神」と書いてあるブログは閲覧注意です。

カテゴリ: 精神的物語(私小説?)

「はなっはなっ」

 花実は体が揺さぶられるのを感じて、目を開けた。景色がぐるりと回り、顔をしかめる。

「きついか?」

 修一の声だった。

「・・・今週から、忙しいんじゃなかったの?」

 花実は目をつぶったまま言った。

「お前のライン見て、電話したのに携帯にも家の電話にも出なかったから。予感が的中した」

「予感?」

「どうせぶっ倒れてるんだろうって」

 そこでようやく花実は目を開いた。背広のままの修一の真剣な顔があった。

 どん、と頭痛が襲い、体は鉛のように重くなった。

「エブリファイ飲んだのか?」

 花実の近くに転がっていた薬の袋を見て言った。

「ん。その後の記憶がない」

「頭打ってないか?」

「大丈夫。でも立てない。ここで転がっているから、毛布かなんか持ってきて」

 修一はため息をつくと、花実の体を抱き上げた。

「腰、痛めるよ」

「前より20キロ軽くなったんだ。余裕だよ」

 花実は前職のストレスからの暴飲暴食で15キロ太ったが、辞めた後からそれがぴたりとなくなり、運動もついでにした。するとみるみる体重が落ち、今では痩せすぎの体型になっている。

「ほら、首に手を回せ」

 花実は修一の首に手を回した。顔を肩におしつけると、修一の匂いがした。ほっと安心する。

 修一は寝室まで花実を運ぶと、ベッドに寝かせた。

「ありがとう」

 花実は布団をかぶる。布団の暖かさが更に花実を落ち着かせた。

 修一はベッドに腰かけ、花実の頭を撫でる。

「まだ、治ってないんだから、人死には精神にきたろ」

「・・・まあ」

「腹はへってないか?」

「・・・胃が痛い」

「胃薬飲むか?」

「持ってきてくれる?」

「着替えてから持ってくるから、待ってろ」

 修一が部屋から出て行った。ほう、と息を吐く。頭痛がひどいが、先ほどよりましになった。

 着替えた修一が薬と水を持ってくる。

「これでよかったな?」

 「ムコスタ錠100mg」 胃潰瘍、胃炎の薬だ。

 「ガスモチン錠5mg」 慢性胃炎に伴う胸やけ、悪心、嘔吐などの症状を改善する薬だ。

 花実は小さい頃から何かあるとすぐに胃痛をおこしていた。それにストレスが加わり、前職を辞める1年くらい前に逆流性食道炎になった。吐き気を伴い、すぐに口に指を突っ込んで吐いていた。今はそこまではないが、何かあると胃痛が続くのは相変わらずなので、処方してもらっている。

 花実を頭痛を堪えながら起き、薬を口に含み、吐きそうなのを堪えながら、水で流し込んだ。

「本当はなんか食ったほうがいいんだけどな」

「あとで備蓄してるゼリー飲む。あとごはん作れなくてごめん」

「なんか適当に食うよ」

 花実はコップを修一に渡すと、また横になった。

「お前、通夜行くのか?」

「・・・まあ」

「俺もついてくから」

「え。いいよ。仕事のあとで往復2時間の運転はきついっしょ」

「お前、ぶったれない自信あんのか?」

「あー・・・」

 花実は目を泳がした。

「本当に行くのか?知り合い来るだろう」

「まあ」

「どこでやんの?」

「修一も知ってるよ。N町の星雲社」

「は?」

 修一の声がワントーン下がる。

「なんでN町なんだよ」

「地元がN町で薬田さんの末っ子だから」

「おいっ」

 修一の声に花実はしまった、と思った。

「お前っ。文化財関係者だけじゃなくて、N町役場の人間も来るだろうがっ」

「あ・・・はい、多分来ます」

「N町の文化財課とか勢ぞろいで来るだろ」

「はい」

「しかも、お前、薬田さんの娘って・・・昨日は一言も言ってなかったし」

「や、関係ないかな、と思った」

「むっちゃ関係あるだろうがっ」

 修一ははあ、とため息をつくと、ベッドに座った。

「お前、行くな」

「けじめとして行きます。過去になにがあったろうが、かかわりを持った人間が死んだんなら、行きます」

 花実ははっきりと言った。

「やっぱついてく。俺も焼香する」

「え・・・車ん中いていいよ。修一だって会いたくない人いっぱいいるでしょ」

「いいんだよ。俺には同じくらい味方がいたからいいんだよ。お前は孤軍奮闘でこの様だろうが。それもストレス最大の原因のところに行くんだぞ」

「薬田さんとは話しないよ。焼香だけしたら、すぐ帰るって。五十鈴さんがいるし、大丈夫だよ」

「厳田もくんだろうが」

「まあ、課長だから」

「ストレス最大要因の2人と会うんだろうが。お前、軽く考えすぎ」

「行くの」

 花実は静かに、しかししっかりと言った。花実の顔を見て、修一はため息を吐く。

「行く途中で具合悪くなったら、引き返すからな」

「はい」

「絶対薬を持ってけよ」

「今、処方してもらっている薬すべて持っていくつもりです。事前にエブリファイ飲みます」

 修一はため息を吐いた。

「お前、今から通夜が終わるまで、ぜってー具合悪いまんまだ。下手すりゃ寝込むぞ」

「どうせひきこもりだからいいよ」

「お前ってなんで変なとこで頑固なんだよ」

 修一がため息とともに言う。

「いまさらなにを」

 花実は澄まして言う。

「通夜までと通夜が終わっても、絶対何か食べる。これ約束」

「はい」

 修一はぽんと頭を撫でた。

「とりあえず、今日は横になっとけ」

「もう少ししたら、眠剤飲んで寝る」

「そうしとけ」

 花実は目を閉じた。


 

 ひかりが刺されたと騒がれた次の日、花実は家事をおえ、テレビも何もつけずに、ソファでぼんやりとしていた。

(刺された、か)
 
 昨日、夕食後、修一がネットで色々と調べていたが、ほとんどが浮気相手とか、通り魔とか、適当なことばかりが書いてあった。

 その時、携帯が鳴った。

 画面を見て、驚いた。そこには『五十鈴』と表示されていた。花実はなんとなく察した。

「はい、勝田です」

『勝田さん?久しぶり』

 花実は一瞬、言葉に詰まる。

「・・・お久しぶりです」

 五十鈴の声はどこか暗い。花実は察した。

『勝田さん、寺島ひかりさんって知ってるよね』

「はい」

『・・・今日の朝、亡くなった』

 花実はふっと笑った。声に出ないように、ゆっくりと話す。

「刺されたのは、昨日、知りました」

『あ。ああそうなのか』

「聞きにくいですけど・・・お葬式は?」

『死亡解剖するので、明後日がお通夜、葬式は次の日だ。場所は星雲社。あの』

「わかります。私が掘ったところですよね」

『ああ。そうだったかな』

 そこで少し沈黙が出来た。

『・・・来るか?』

「車がないんで、旦那が仕事終わってからお通夜のほうに行かせてもらいます」

『そうか』

 それから、また会話が途切れた。状況が状況なだけに、楽しい話はできない。しかも花実は前の職場は逃げるように辞めていた。話すことなど何もない、と花実は思ってる。

『元気か?』

 花実はふっと笑った。こんな時なのに気づかう五十鈴のやさしさに花実は昔よく救われた。

「まあ、のんびりとしてます」

『そうか。それじゃ、また』

「はい。失礼します」

 花実はスマホの画面を眺めて、どうしようかと思ったが、修一にラインをし始めた。

『昨日言ってた子、亡くなったって。お通夜行くから、車貸して。明後日ね』

 それだけ送ると、花実は胸を抑えた。軽く呼吸を繰り返す。ゆっくりと立ち上がり、家具に体を預けるようにして戸棚の前にたどり着く。

 戸棚の中から、薬袋を取り出し、更にその中に入っている薬を取り出した。

 喘ぐように飲んだ。

 「エブリファイ液 0.1mg」

 とそれには書いてあった。水なしで飲める、即効性の高い液状の精神安定剤だ。

 ずるずると花実はへたりこんだ。

 そして意識を手放した。



 
 



 登場人物の名前、相関関係、ちょっとしたメモをB6の紙1枚に書き込み、それでぶっつけ本番のスタート。

 暗い話です。

 ぶっつけなので、矛盾が出ないよう気を付けながら、書いていきます。

 忙しいので、どんくらいのスパンで、どのくらいの量を書くかわからないけど、久々に書いてみたいと思います。

 私小説です。私のストレスのはけ口。

 愚痴小説です。


 ソファで横になって、うたたねをしていた花実はスマホのラインの音で目を覚ました。
 
 無視して寝ようとするが、何度も連続で音が鳴る。
 
 (・・・研究室組かな)
 
 花実の大学の研究室の同期のメンバーは卒業して5年近くたつのに、今でも仲がよい。グループラインがあり、結婚、妊娠報告、誰かと遊びに行った、こういうイベントがあるけど、どう?とかよくある。
 
 ちょっと前は結婚ラッシュ、今はベビーラッシュだ。

(ゆかちゃんところがこの前生まれたから、誰かが見に行って、写真あげてんのかな)

 音はなり続ける。ちょっと寝るどころではないくらい、鳴りまくっている。

「っだー、もう」

 花実は根負けして、起き上がり、 床に転がしていたスマホを手に取った。

『まじで?』
 
 画面にはそう書かれていた。

 花実はラインの最後の文面からスクロールしていき、未読の部分を読む。

『こーしのところのお嫁さん、ひかりちゃんが刺されたんだって』

「は?」

 こーしとは寺島高志と言って、1学年下の研究室の後輩だ。2年くらい前にさらに後輩の子、ラインにあがってるひかりと結婚したと風の噂で聞いていた。

『え、こーしが刺したの?』

『違う。通り魔的な?』

『なにそれ』

『夜、道歩いてたら、後ろから刺されたんだって。結構やばいらしいよ。ICUにいるらしい』

『うそ』

 そのあと、えんえんとラインが続いていた。

『それ、どこ情報?』

 花実はラインした。

『私、同じ職場だもん。もううちの課だけじゃなくて、役所自体大混乱』

 作田ひよりと表示されたラインがきた。

「あ、そか」

 ひよりと刺されたひかりは同じF県T市の文化財職員だったのを思い出す。

『もう、こーしが倒れそうになるし、記者っていうの?カメラが何台かきた』

『それ、いつの話?』

『刺されたのは昨日の夜。8時くらいかな?それから連絡回ってきて、文化課だけ全員集合して、病院行った。なんか、刺されたところが悪かったらしくって、大手術だったよ』

『大丈夫なの?』

『正直、わかんないって。出血がすごかったらしい』

『もう、今日は役所、機能停止状態。市長も昼過ぎに記者会見するって』

 そこまで読んで、花実はスマホを床に転がした。

 ソファのクッションに顔をうずめる。うっすら、笑った。



「ただーいま」

「おかえりー」

 花実が仕事から帰ってきた夫の修一を迎える。

「今日、なに?」

「いんげんのベーコン巻、その他なんか」

「なんだよ、なんかって」

「着替えてきなよ」

「あー疲れた」

 修一はネクタイを緩めながら、着替えに行った。花実はテーブルの上に夕食を載せていく。

「お前、食べた?」

「はあ、まあ。作りながらつまんだから。おなかいっぱい」

 修一は花実の顔をじっと見た。

「薬は?」

「飲んでるよ。つか、見てるでしょ。飲んでるところ、毎日」

「なんかあったか?」

「特に私には得も損もしないけど、事件が起こりました」

「なんの?」

「まあ、食べなよ。さめちゃうよ」

 修一は席について、箸を手に取った。

「いただきます。そして事件とは?」

「んー、研究室時代の後輩が刺されてICU送り」

「は?」

 修一は顔を上げた。

「は?なにそれ」

「なにそれと言われましても・・・」

「誰に」

「わかんない。研究室のグループラインで回ってきた」

「どこにいるの?その人」

「F県のT市の職員。同期の子が同じ職場だから情報回ってきた」

 修一はスマホを手に取った。花実は嫌な顔をする。

「食事中に携帯弄られんの、嫌いって言ってるでしょ」

「待て」

 修一はスマホを操作して、花実にスマホを渡した。

「これか?」

 花実が画面を見る。

『怨恨か?通り魔か?』

 というタイトルが目に入った。

「これ、どっから?」

「ローカルニュースのサイト」

 花実がざっと斜め読みをする。

『昨日午後8時頃、女性が歩道に倒れていると通報があった。倒れていた女性はF県T市の職員。背中を刃物で刺された模様。道は人通りが少なく、発見が遅れたことにより、出血がひどい。現在集中治療室で治療中。警察は怨恨、通り魔両方の線で操作すると発表。女性が勤めているT市市長は遺憾の意を示し、早急な回復を、と記者会見を行った』

「お前、この人知ってるの?」

「んー、旦那の方が研究室のいっこ下の子だから、知ってるけど、この子は更に下の子だから、あまり面識ないかな」

「T市大混乱だろうな」

「機能停止状態だって」

「見舞いとか、行くのか?」

「行かないよ。ひよりちゃんが同じ課にいるから、状況聞くだけ」

「お前も気を付けろよ」

「気を付けるて、T市ってこっから車で2時間だよ」

「前から気になってたけど、夕方の散歩控えろよ。最近、暗くなるの早いんだから」

「私の少ない楽しみを」

「あと、俺がいない時の戸締り」

「してるじゃん」

「昨日、ベランダの窓の鍵しまってなかったぞ」

 花実はぶすっとした顔をする。

「なら早く帰ってきてよ」

「来週は月末だから、遅くなる」

「知ってるけどさあ」

「物騒なんだから、気を付けろよ」

「はいはい」

 死にたいとはいわせない


 死よりもつらい苦しみを


 狂うくらい苦しんで、そして死ぬな



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